- South of heaveN - 天国の南

index -  -  - 

玉虫色の空 -2- くりすます?

【でびるん】は、この時期がきらいだったりして。

この森へ来る前から、どこへ行っても、どこの街でも。
冬の月の最後は『くりすます』とかいうイベントで大にぎわい。
仲良し(…かな?)の【えんじぇるん】も、
いつもいそがしく飛び回っている。
ふわふわふわ…だけど精一杯にね。

みんな、浮かれてドキドキワクワクしながら、
『くりすます』の準備に余念なし。
飾り付けに、ケーキに、ごちそうに。
あの人この人へプレゼント。
でも、【でびるん】はいつもひとりぽっち。
“くりすます”でも“くすりまします”でも、
なんでも同じだった、今までのこの時期。

「キャー!! どいてどいてェ!!!!」
どかーん。
「…きゅぅ……」
ふよふよと森の外れを漂っていた【でびるん】に、
“ブレーキの壊れたダンプカー”よろしく思いっきり激突したのは、
最近この森にやってきた【うっしん】。
「ああっ、ごめんなさい!!…大丈夫??」
その背中に乗っかって心配そうに覗き込んでいるのは、
これまた最近やってきた【ふらんそわ】。
「…うぐぅ…だ、大丈夫…」
全然、大丈夫じゃないクセに、必死にヤセガマンをしてみれば
「大丈夫やね! 大丈夫大丈夫!! キャー遅れちゃうよ!!!」
「あ、ちょっと【うっ】ちゃん、あの人、大丈夫じゃ…ひゃぁ!!」
「ホラ【ふら】ちゃん、しっかりつかまってへんと落っこちるで!!!」
……速。もう見えないよ。


「ねー、みんな『くりすます』って知ってる〜?」
すべては【えんじぇるん】の、この一言で始まったようなもの。
っていうか、ホントにこの一言で始まったんだけど。
この森に動物たちが集まってきて、初めての年越し。
そして、初めての一大イベント。それが『くりすます』なんだね。
知っているのも知らないのもまとめて、【えんじぇるん】が一代講釈。
コイツ、こんなに流暢にしゃべれるんじゃねーか
と、密かに思う【でびるん】。
もちろん【でびるん】は聞かなくても知ってるから、
いつものヒネクレめかして、ひとりで抜け出し、
海岸で水平線をながめてみたり。
しばらくして、さて、一本もみの樹のてっぺんに帰ろうと思ったら…。
あらら、動物たちが集まって、何やらいそがしく始めているぞ。
「…もみの樹…だもんなァ…」はぁ。そういえばそうだった。
というワケで、お気に入りのベッド(?)も取られて
余計に空しい【でびるん】だったり。


「…痛てて…」木の幹にぶつけた後頭部をさすりながら。
どうしようかな…どうせ誰もいないけど、
いつものネコ溜りへでも行ってみよう。
ふよふよふよふよ…。


「【ごろー】それもっと右―!!」と大道具組の【しばん】たち。
「【うっさーぎん】!! クリームが足りないでぃす!!」と、
ケーキ組の【ぱんだん】たち。
「あ、【ちゅーん】そこは赤じゃなくて緑だよ!!」と、
お絵描き組の【はむらん】たち。
「これで届くー? もっと上―?」と、
飾り付け組の【えれふぁん】や【ぶうたん】たち。
「じゃ、もう一回今のコーラスを」「はーい」と、
聖歌隊気取りの【しまん】や【みっけん】たち。
海では【うりん】や【一角まっしゅん】たちが、何やら色々と準備中のようで。
「あきゃーっ!! ゴッメ〜ン、遅くなっちゃった!!」と、
けたたましく到着したのは、どうやら買い出し組の【うっしん】と【ふらんそわ】。
あれをこうこう、それはそうそう、と、みんなの指揮をとってるのは、
もちろん言出しっぺの【えんじぇ……え?
「………すぴ〜………」
寝てるし。


森の陽だまりはネコだまり。
ふよふよと漂ってきたものの、今日は誰も…。
「…ふにゃ〜……(かしかし←首をかく音)」
おやおや、【とらん】がひとりで日向ぼっこ中でした。
実は、この森は全部【とらん】のナワバリなの。
でも、誰も気にしていないし、当の【とらん】も、ちっとも気にしていない。
みんながやって来て、楽しく暮らし始めて。
【とらん】もそれで満足の様子。
タマにコロコロ転がって、ニコニコ森をお散歩する。
ヒネ【でび】はなぜか【とらん】には一目置いているようで。
なんとなく、素直になっちゃいそうな感じ。

「ふぁ?…【でび】ちゃん、こんちゃ」
「こんちは。邪魔しちゃったかな」
「いいにゃ〜平気平気」ふなーっとアクビで身体を伸ばす。
「【でび】ちゃんは飾り付けしにゃいの〜?」
となりに腰かけながら、【でびるん】もアクビをひとつ。
「…ん? うん…。ま、いいじゃない。【とらん】こそ、一緒にやらないのか?」
「にゃはは」
「なんだよ…あ、何か企んでる」
「企んでる…ふにゃ」
ふと、何かを思い出したように「ああ、そうそうそう」と【とらん】。
「お願いしようと思ってたにゃ」
「…オレ? 何?」
「実はにゃ、【さん】と【むーん】のトコへ行ってきて欲しいにゃん」
……さて、お使いの内容はなんだろうね?

色々準備も忙しく、気がつけばもう『くりすます』の前日。
「“いぶ”って言うんだよー」と【えんじぇるん】。
「恋人同士は一緒にお祈りするんだよ〜。
 んでもって、0時を過ぎたらみんなで"めり〜くりすます"って言うよー」
……そうなのか?
「それから、待ちに待った“ぱーてぃ”の始まりなのさっ♪」
……そ、そうなのか?
「そうなんだよー♪ プレゼント食べてケーキを交換するの」
……そ、そうですか。
じゃ、そういうことで、みんな飾り付けに、
パーティの出し物に、プレゼントの用意に、
ラストスパートってトコですか。

「ああ、お疲れ。はい、コレどうぞ」
「ご苦労さま。 さ、コレ持って行ってね」
ふよふよふよ…【とらん】に頼まれたお使いをすませて。
「行ってきたよ」
「お疲れにゃん♪」
「…どうするのさ、コレ?」
「コレはねぇ、コレとコレを混ぜて、コレとコレを加えて・・」
何やら【とらん】が妖しげに。時折「うひゃひゃ」……ちょっと怖……。
「できた♪ んじゃ、ちょっと早いけどコレは【でび】ちゃんにプレゼント」
「へ?」
何かの入った袋を手渡され、とまどい気味の【でびるん】。
「あ、ありがと…でも、オレ、【とらん】にあげるプレゼントなんて…」
「にゃはは、じゃ、またお願いきいてほしいにゃ♪」
「え?」
…さて、今度はどんなお願いなんでしょ?


イヴの夜。

【はむらん】と【ちゅーん】が、飾り付けの終わった一本もみの樹の上で、
カランコロンと鐘を鳴らしてるね。
みんなが、プレゼントを持って集まって来て。
「もうすぐだよー」【えんじぇるん】の声でカウント・ダウン。
……いいのかな、コレで。
お、こっちで【なまらん】と【くろん】、
あっちで【しまん】と【みっけん】がお祈りしてるぞ。
そーかァ、そーだったのかァ。
…ん? あ、他にも……恥かしそうだから、そっとしとこう。
「めりぃーーっ!!」
「くりすまぁーーすっ!!!」
さぁ、パーティ・タイム。みんなそれぞれプレゼントを交換したり、
ごちそうを食べたり、ダンスや歌で盛り上がってる。
水平線には【さん】も顔を出して、
夜空では【むーん】が、星のカケラで素敵な模様を描き出し、
海では【うりん】や【一角まっしゅん】がホタルイカを引きつれて
次々に変わっていく光のダンスを披露。
「【しべりん】!! 先輩と空中ボール蹴り3回転半ひねり1/2いきまーっす!!」
「【ぱんだん】は【うさぎん】と歌を唄うのでぃす!!」
「【しろうさ】―!! 踊ってー!!」
「【えれふぁん】の秘技! 鼻逆立ち!!」
まぁ、盛り上がる盛り上がる。

「……」
「さ、【でび】ちゃん。行ってきてにゃ」
「オ、オレ…ちゃんと出来るかな?」
「【でび】ちゃんにゃら、だいじょぶだいじょぶ♪ それ!」
「うひゃ!」
【とらん】に首ねっこをくわえられ、そのまま夜空に放り上げられた【でびるん】。
妖しげな袋をしっかりと抱え、ふよふよと精一杯、夜空を上っていく。
「…それ、【でび】ちゃんから、みんなへのプレゼントだよ♪」
【とらん】はにこやかに、そうつぶやいたとさ。


夜空に。
光の幕が。
キラキラと輝き。
キラキラと波打ち。
広がる、いろんな色が。
たくさんの光が。


「わー、すっごーい!! 見て見てー!!」【ぶうたん】がビックリして叫ぶ。
「"おーろら"だー!!」【一角まっしゅん】が嬉しそうに叫ぶ。
みんなが見上げる真冬の夜空。
【さん】と【むーん】にもらった光のカケラ。
【とらん】が作った“おーろら”の素。

「…スゲェ…」
ふりまいた【でびるん】本人もビックリ仰天。
ふよふよ、よたよたと【とらん】のもとへ帰ってくると…。
「ご苦労さまにゃん♪ みんな、すっごく喜んでるにゃ」
「ん、うん。そう…だね」
「【でび】ちゃん、いてくれてよかったにゃ。おいらだけじゃ、アレ作れないもんねー」
「…そう、か。…そう…だね」
「アレは、おいらが【でび】ちゃんにプレゼントしたんにゃ。
 【でび】ちゃんは、それを使ってみんなにプレゼントしたにゃん♪」
「…え?」
「もとは【さん】と【むーん】からのプレゼントにゃん」
「…え?」
「プレゼントがグルグル回って、結局、みんなへのプレゼントになったにゃん♪」
「あ…」
「それでいいにゃん♪ みんなが笑顔見せてくれれば、おいらにはそれが最高のプレゼントにゃ」
“おーろら”を見上げる【でびるん】。
そうだね。ヒネクレてるくせにこの森を出て行けないのは…。
ここには、素敵な笑顔があるから。みんなの笑顔を見たいから。
「…うん」
きらいだった『くりすます』。でも…。
【でびるん】も、来年はちょっとだけ素直に、このイベントを楽しめるかもね。



見上げれば、玉虫色の空。


きらきら色に輝く、素敵な空。




「キャー!! どいてどいてぇ!!」
どかーん。
「何してるのー2人とも!! もうパーティ始まってるよー!!」
「せや! こんなトコでボーっとしとる場合ちゃうで!!」
【うっしん】は【とらん】を背中にかつぎ上げ、
【ふらんそわ】は【でびるん】を助け起こして【うっしん】の背中に飛び乗る。
「よーし【うっ】ちゃん、いこーーっ!!」
「にゃはは、行くにゃん!!」
「よっしゃ、行くでぇーーっ!!!」

そして、一本もみの樹のクリスマス・ツリーへ向かって…。


「………痛てて………」

index -  -  -