玉虫色の空 -6- もっともっと高く…
いつだったか…この森にやって来たころのお話。
「【うっさーぎん】!! こっちに美味しい木の実があるよ!!」
元気な【ぱんだん】の声が響きます。
「【ぱん】ちゃん、ちょっと待ってぇ」 【うさぎん】がぴこぴこ走ってくる。
【ぱんだん】と【うさぎん】。【とらん】の森の仲良し2人組。
「いっぱい採った!! いくよー【うっさーぎん】」と狙いをさだめ。
えいっ、と木の実を投げる。1つ、2つ、【うさぎん】見事にキャッチ。
えいっ、と投げた4つめの木の実は、大きく外れて向こうの黒い物体に…
コツン。
「…あたッ」 森をふよふよウロウロしてた【でび】でした。
「あっ!! 【ぱんだん】、当たっちゃったよ…」 心配そうな【うさぎん】。
ところが【ぱんだん】、てってけ【でび】に近づき…。
「ごめんなさいッ!!」 ぴょこッ!!
ちょっとムとしてた【でび】の、機先を制する先制お辞儀。
もう何も言えない。
「あ、え、うん、大丈夫。・・気をつけような」
木の実をホイと投げ返し、ふよふよ【でびるん】はどこへやら…。
「よかったね、怒られなくて」 【うさぎん】が声をかけると?
【ぱんだん】は何故か【でび】の去った方を、熱いまなざしで見つめている。
どうしたのかな?
「…いいなーぁ…」 な、何が!? え? え!?
今日も【でびるん】はふよふよ散歩。
森で見つけたネコだまりでも、ながめてみようかと思い…
「ん?」
途中のモコモコ切り株で一休みしてると、後ろから木の実がコツン。
ふり返ってみれば。
「あ、こないだの」
今日はどうやら1人で【ぱんだん】。
「あ…な、なんか用かな?」
こういうの(?)に慣れてない【でび】はちょっとオロオロ。
「………」 【ぱんだん】つぶらな瞳で無言の威圧。
「………(汗)」 【でびるん】、目が泳いでるぞ。
「ズルイッ!!」 「ひゃっ!?」 いきなりの先制パンチにひるむ【でび】。
「…あの…」 「ズルイよッ!!」 うっ…これはもう、何も言えないかも。
「ズルイって…あの…なに…」
「だって、飛べるじゃん!!!!」
ようやく、何が何だかわかってきた。
つまり【ぱんだん】は、空飛ぶ【でび】がズルかった…ふよふよ、でもね。
「ねー、飛ぶとどんな感じなの? どういうふうに見えるの? どこまで行けるの?
速く飛べるの? 高く飛べるの? くるくる回ったりできるの?
止まってたりできるの? ○×@!♪△…」
矢継ぎ早にマシンガンな質問攻め。
【でび】は答えようにも、いつ何を答えていいのやら。
「いいなー。【でびるん】は羽根があって…お空を飛べるんだねェ…」
【ぱんだん】のつぶらな瞳は、【さん】がサンサンと輝く空へ。
となりに座って聞いてた【でびるん】…ふと考えてみる。
(飛べるって…そんなにいいことなのかな?)
何せ、気がついたら飛んでた【でび】にとって、
飛べる飛べないも「そういうもの」という意識しかなくって。
改めて考えてみるものの…自分より速く、高く飛べるヤツなんて、
いっぱいいるわけで。
「…オレだって、うらやましいよなぁ…」「なに? なにがうらやましーの?」
「ハッち! いや、その、うん…何でもない」
「飛びたいのでぃす」
イキナリといえばイキナリ。なんと答えていいのやらで…固まってしまった。
「飛ぶって…言ってもさ」「ズルイのでぃすッ!!」
やっぱもう、何も言えない。
「飛ぶー???」小高い丘の、一本もみの樹の上。
お菓子食べながら【えんじぇるん】。
「飛べるじゃないの」
「違ェー、オレじゃなくて…」
「ボクも飛べるよ?」
「ンなこた分かってるって!」
相変わらずというか。【でび】はなんとか事情を説明。
「ふーん。でも、そーゆーコトなら【とらん】に相談するのが一番じゃない?」
と【えんじぇ】。
「なンか、また怪しいクスリかキカイか、作ってくれるかも(笑)」
「そーだな。相談してみるか…」
さっそく、ふよふよと【とらん】の元へ駆けつける【でびるん】でした。
「飛ぶー???」森の中の陽だまりで、日向ぼっこ中だった【とらん】。
「なんかいい方法ないかな?」
ふにゃーと考え考え…ハタと思いついたのが。
「そーだ。確かそんなのもあったよーにゃ…」
「なに? どんなの? どんなの?」
ガリガリゴリゴリトンテンカン……。
「えーっと、ここはこうなって…」「こう?」「そうそう…で、こっちが…」「こう?」
「んーっと、そうそう…あ、違…ま、いいか」「そーか…ん? よくないよくない!」
ガリガリゴリゴリトンテンカン……。
海岸沿いの原っぱで。
「……これぇ??」目が冷めてる【ぱんだん】。
「う…うん。これで飛べる…ハズなんだけど…」びくびく【でびるん】。
「なーにコレ???」半信半疑。
「なんだっけ…げ、げいらかいと? いや違う…はんぐぐらいだぁ…とか」半信半疑…。
三角形。布張って。なんだか頼りなげな骨組み。
「………………ホントに飛べるの?」ささやくように、にらみつけ。
「ととととにかく、ちょっとやってみよう。うん」
【とらん】から教わったように、【ぱんだん】に飛び方を伝授…といっても半信半疑。
こーしてあーして…どうなることやら…。
とてててててて………。
「よーし上げて!」「えいっ!」
ぶわっとっとっとごろんごろごろごろ…。
「ひゃー…大丈夫か…?」ふよふよふよ。
“ぐらいだぁ”が勝手に飛んでいかないように、
骨組みに縛りつけたロープをにぎって駆けつける。
「……アタタタ……」助け起こされた【ぱんだん】は。
「今ね! 今ね! 少し浮いたよ!!……アタタ…」
もう何回目やら。【ぱんだん】あちこち傷だらけ。
それでも目を輝かせて、原っぱの高みへ上っていく。
“はんぐぐらいだぁ”も、もうボロボロ。何度修理したかわかりゃしない。
とてててててて………。
「えーいッ!!」ぶわぁっ!!
ごろんごろんごろごろごろごろ……。
さすがに見てられなくなった【でびるん】。助け起こしながら…。
「な、もう止めようよ…ケガしてるし、無理だよ」
「…アタタタ……んーん、まだ…もう一回やるのでぃす…」少し朦朧とし始めたか?
息も上がってぜーぜーいってる。
「…もう無理だってば」
「やるのでぃす! う〜…だって、だって、
今日飛べなかったら“魔法”が消えちゃうんでしょ…?」
「う…うーん…」
「…ねぇ、これで飛ぶのって…すごいムズカシイんじゃない?」
と、半信半疑な【でび】。出来上がった“はんぐぐらいだぁ”をながめながら…。
「そうだにゃー。一生懸命練習しないとダメだろーねぇ」
と、一抹の不安を隠せない【とらん】。
「……途中で『もーヤダ!!』とか言出すかな…?」
「ん〜〜〜………」
「お、怒っちゃうかな…?」
「んん〜〜〜…………」
「できれば…飛んでほしいよね」
「…ちょっと心配だけど…“魔法”かけてみるかにゃ」
「…ん?」
「これはね、“魔法の羽根”なんだよ。ただ、扱うのが難しいから、
一生懸命練習しなくちゃいけないの」
「うん」
「でね、この“魔法”はね。今日一日しか効果がないんだってさ」
「今日…だけぇ?」
「うん。今日だけだって。明日になったら、もう飛べないの」
「今日だけ……かぁ」
「だから…だから…やるのでぃす!」もー涙目。
そしてぜーぜーいいながら、“羽根”を担いで上っていく。
「……なんでそこまで……」と、どーしていいのか【でびるん】。
「だって…だって……だって………」
「飛びたいんだもんッ!!」
とてててててて………。
ぶわっ!!
……………。
あ。
「…あ」
「…あ」
…あ。
飛んだ。
「…飛んだ…」
「…飛んだ…」
海へと吹き抜ける風が、優しく、力強く、“魔法の羽根”を運んでいく。
どんどん高く。どんどん高く。
今しも水平線に沈みかけている【さん】が、空を夕焼け色に染めていく。
どんどん高く。どんどん高く。
「………わぁぁ………」頼りなげな骨組みにしがみつき。
「………わぁぁ………」ぶら下がったロープにしがみつき。
骨組み布張り“はんぐぐらいだぁ”にかけられた"魔法"は…。
“絶対あきらめない”っていう【ぱんだん】の気持ち。
飛べないからこそ、飛びたい空。
飛びたいからこそ、あきらめない空。
あきらめないで頑張れば…。
飛びたい気持ちを持ち続ければ…。
必ず飛べるよ。
あの、玉虫色の空を。
キラキラ色の、素敵な空を。
もっと高く。
もっともっと高く……ね!