- South of heaveN - 天国の南

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玉虫色の空 -7- 誕生日の贈り物

てくてくてくてく…。
今日もお散歩【ふらんそわ】。
ん? お散歩…でもないような。

「ねー【でびるん】、もうすぐ誕生日やんねぇ」
一本もみの樹の根元でお茶飲みながら。
「…ん? そういえばそうかな」
「なにー、自分の誕生日覚えてへんのー?」
「あ、いや、あんまり気にしてないから。実際、いつ生まれたかって、よくわかんないし…」
「そうなん? じゃ、どして誕生日なの?」
「………なんでだろ? 気がついたらそうなってた…のか?」
「へんなのー(笑)」

久しぶりに森を出て、牧場の方へてくてく中。
「【ふら】ー! 久しぶりやん!!」
【うっしん】が声をかけて。
「きゃー【うっ】ちゃん久しぶりやー。元気してるー?」と【ふらんそわ】。
「元気元気! どしたん今日は。えらい荷物背負って」
「ちょっとねー探してるのよー」
【うっしん】にあれこれ説明してみるが、
「うーん、ウチは知らんわー。そーそー、もちょっと先行くと【もーにん】おるし、聞いてみー?」
そうするねー、とてくてく。

「ほらほら、水浴びに行きますよ!」
黄色いふわふわぴよぴよたちを、追い立て追い立て【もーにん】ママ。
「こーんにちわー♪」
そこへてくてく【ふらんそわ】。
「あらー、こんにちは♪ この辺じゃ見かけない子ね?」
「はいー。向こうの方の森から来ましたー」
何やらいろいろ説明すると…。
「それなら聞いたことあるわねぇ…確か」
コケッと辺りを見回して。
「そうそう。ちょっと遠いけど、あそこに見える丘を越えた所にねぇ…」
そんなこんなで、再びてくてく【ふらんそわ】。

暖かい春の初めの頃。微風がさやさや気持ち良く。

ぐるっと丘を回るとそこには。
何だか見たことない花がいっぱい。
その真ん中に一本の樹が。
「あ、あれやわ。きっと。こーんにーち…わ…ぁ?」
「ん? 誰だボクの崇高なる創作活動を妨げるのは」
「…あのー…初めまして。【ふらんそわ】って言いますぅ」
「キミかい? キミが【ふらんそわ】なんだね?」
「え? うん…はい。そーですぅ」
不思議な花に囲まれて、ほぇんと立ってる一本の樹。
枝のひとつがさやさや揺れて。
ぶら下がってる真っ赤な【あっぷるん】。
「あの…お邪魔しちゃった?」
「平気さ! 今休憩しようと思ってたんだから」
【あっぷるん】はどうやら、何やら書き物をしていたようで。
開いたノートをパタンと閉じると、【ふら】の方に向き直る。
「で、用件はなんだい?」

さやさや微風に、ひらひら虫が一羽、漂っていく。
「なるほど。確かにボクはそれを知ってるよ」
と【あっぷるん】。【ふら】の顔がぱっと明るく。
「教えてくれるんですかー?」
「教えてあげてもいいけど…それはボクの役目じゃないんだ」
「へ?」
「そこに道がある。その道をずっと、あの山へ向かって歩いていくといい」
「あ。あの山なの?」
「違うね。途中で涙と笑顔で作った悲しげな服を着て、嬉しそうに踊っているヤツに出会う」
「…??」
「そいつに向かってこう言うんだ。『わたしは知っている』」
「…え? え? 知ってるって…何を…???」
【あっぷるん】ちょっとしかめ面。
「そんなことはボクの知ったことじゃない。ソイツに聞くんだね」
「…え? え?え?え?」
【あっぷるん】またノートを開き…。
「今度会った時は、ボクからこんにちはと言うよ」
カリカリカリ…書き物に没頭してしまった。

何が何やら、よく分からないまま。
それでもそれしか道がないのなら、とにかく歩いていくだけ。
てくてくてくてく…【さん】が少し西にかたむき始め。
「…? あ、あれかな?」
もう少しで山道にかかりそうな道の真ん中で。
赤と黒のおっきな帽子を被った不思議なヒトが踊ってる。
「あ、あのぉ…」
恐る恐る声をかけてみる。彼はまだ踊ってる。
「あのー…」まだ踊ってる。
「あの…あ、なんやっけ…えーと『わたしは知っている』…」
ピタ、と踊りが止んで。
「あの…」
「そう、“火”さ。問題の答えは“火”なんだよ」
「…ほぇ?」
「さぁ答えて」
「は?」
「“ゆらゆら、きらきら、白は黒く、黒は赤く、形があって形がない、情熱的でも心はない”」
「え?」
「それに応えるには、僕の問題に答えてもらわなくちゃいけない」
「お?」
「こんにちは。僕は【くらうん】」
「…あ」
【くらうん】はくるっとターン。そしてちょっと困り顔。
「…【あっぷるん】だね。しょうがないなぁ…案内するよ」
そしてぴこぴこ歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっとあの…」
あわてて後を追う【ふらんそわ】。ぴこぴこてくてく。
「あの…案内ってどこへ…」
「キミが行きたいと思ってるところへさ」
ぴこぴこてくてく。
「でもあの…」
「せっかくだから、キミの名前も教えてくれないかな?」
「え? あ、【ふらんそわ】」
「【ふらんそわ】。いらっしゃい。よく来たね」


【さん】は西の山間に帰って行く。
辺りは青紫に染められて。小さな星がちらちらと。
ぴこぴこてくてく。てくてくぴこぴこ。
木々の合間をぬいながら、山道は登って行く。
(はぁぁ…どこまで行くんやろ…?)
さすがにちょっと疲れてきた【ふらんそわ】。今日は朝から歩きづめ。
ぴこぴこ【くらうん】がふと立ち止まり。
「さぁ着いた! 僕の役目はここまでですね」
「着いたって…ここ、行き止まり?」
辺りはどうやら切り立った崖。目の前にはどかーんと岩の肌。
「じゃぁね。今度はもっと難しい問題を考えておくから」
「え? あっちょっちょっとー!」
【ふら】がとめようとする前に、もう【くらうん】は闇の中。
早い早い。あっという間に見えなくなって。
「…ど、どーするのよぅ…」
暗い山道の途中、ひとりぽつんと残されて…。

途方に暮れる【ふらんそわ】。
帰ろうにも、真っ暗な山の森からは、ひぎゃーとかきょぇーとか。
ヤバそうな声が聞こえてくるし。
「…どどどどーしよー(半泣)」
ふと、行く手を遮る岩の壁を見ると。
何やら…薄らぼんやりとしたモノが。ゆらゆら。ふわふわ。
「………ゆ……ゆーれぇ……?」
もー、どっきんどっきんばっくんばっくん。
「何言っとーと。こんなカワイイ幽霊なん、おるはずないやん」
「ひぁっ!?」
よく見ると、それは青白い炎。ゆらゆらふわふわ。
「ゆ、ゆーれーや…ないん?」
「違うったいって。ウチ【こふぁいあ】」
「あ…あの…困っちゃったんだけど…」
「困っとーと? 大丈夫大丈夫、ウチが助けちゃーけん」
「助ける…?」
「何困っとーと? 言って言って!」
そこでこれまでのコトをポツポツ話してみると。
「あー、知っとー知っとー。連れてっちゃーけん、手につかまっとって」
「あ、うん。ありがと」と【こふぁいあ】の手をにぎる。
「しっかりつかまっとって…んじゃソコのボタン押して」
「これ…?」
岩の壁にちっちゃなボタン。恐る恐る【ふらんそわ】。

ポチ。

「!! ひひゃぁ〜〜〜〜〜…」
「回る〜ぅぅぅ…」
くるくるくるくるくるくるくるくる……。

気がつくとそこは、白くて暗くて明るくて黒くて…なんだかぼや〜っとしたところ。
「? あ、あれ?【こふぁいあ】…?」
「まぁーすっぐ行く。そこにあるけん」声だけが。
それも、だんだん小さく小さく小さく…。
真っ直ぐって言われても、いったいどっちへ真っ直ぐ。
そう思って振り返ってみると。
「あ、あんなトコに」
白くモヤのかかったような道の先。何かがぼんやり光ってる。
「…ここまで来てん。もぅあそこまで行くわ」
覚悟をキメて歩き出す。
てくてくてくてくてくてくてくてく…。
「とっ…遠っ!(ひーはー)どこまで歩くんよ(ふーひー)なんかもぉ(ほーへー)…」
ヘロヘロになりながらも、どうにかこうにか歩いていると。
ようやくようやく、その光らしきものが見えてくる。
「つ…着いたん?」

薄ぼんやりした場所に、ぼやぁと光るまーるい物体。
よく見ると、どうやらそれは植物らしい。
大きな2枚の葉の上に、うっすら輝く黄色くて丸い実がのっかっている。
「あったー……まんげつ草の実…」
【むーん】がこぼした涙って言われる、幻の植物。
うれし涙の粒がぽろぽろ落ちて、不思議な場所に不思議な花が。
この実で作ったケーキは、そりゃもうとろけるような美味しさだとか。

てくてく【ふらんそわ】が探してたものは。

「…でも、これ…ちょっと…ぅひゃぁ……」
よくよく辺りを見渡してみれば。
そこはもう崖っぷち。向こうはもう急斜面。
まんげつ草はそこに突き出た、岩の先っぽに生えている。
「…と、取れるかな…(グラッ)こわっ!!」
そろそろ踏み出した【ふら】の足元が揺れて。
崖からはずれた石がいくつか、カラカラと転がり落ちていく。
泣きそうになりながら【ふらんそわ】。
どうにも震えが止まらない。
でも…。
「と、取るもん! これ取りに来たんだもん!」
這うようにそろそろと。
「と、取って…美味しいケーキ作ぅひゃぁ!!」
大きな実を両手で抱えたその瞬間。

ガラガラガラガラ…。
ころころころころころころころころ…。

まんげつ草の実を抱えたまま。
転がって転がって転がって転がって転がって…。


「…っひゃ!?」
すっかり日の傾いた一本もみの樹の根元。
小さく、聞き覚えのあるようなないようなメロディが流れてる。
「…ん? 起きたかい?」
草笛を口から離し、【でびるん】がのぞき込む。
「あ、あれ? あれ?」
目をこすりながらきょろきょろ。
辺りを見回す【ふらんそわ】。
そこは、いつもの見慣れた森。

「…でも…」

暖かい春の初めの頃。微風がさやさや気持ち良く。

ふと、夕暮れ空に目をやれば。
赤から青へのグラデーション。
気の早い星が一粒きらり。
いろんな色して玉虫色。
きらきら色の素敵な空。


肩にもたれて空を見上げ。
「ねー【でびるん】…」

草笛くわえて返事する。
「んー?」

両手に抱えた大きな実は…。
「…もうすぐ、誕生日やんねぇ」

ほんのちょっと、微笑みながら…。
「…ん? そういえば…そうかな」


〜♪


小さく、聞き覚えのあるようなないようなメロディが…。

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