- South of heaveN - 天国の南

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玉虫色の空 -9- ふぁいなる〜キミの宝物

「ねぇー。ねぇーってばー」
一本もみの樹の下で、大声出してるのは【みっけん】。
ちょっと薄曇りの秋の朝。
「ねぇー【えんじぇる〜ん】、【でびる〜ん】、起きてよー」
「…ふにゃふにゃ」
眠い目こすこすお寝坊【えんじぇるん】。
「あー…おあよー【みっけん】」

ときおり流れていくサワサワ風。
夏の元気もようやく静まり、ちょっと物憂げな草花の声。
森の外れの丘の上。ワサワサ葉がゆれる一本もみの樹の上。

「…ふにゃふにゃ…【でびるん】も起きなよー」
「…んーまーぁん…」
ワケの分からないうめき声。
【えんじぇるん】がいくらゆすっても、起きる気配一向にナシ。
【みっけん】は律儀にお茶を入れてくれる。お客様なのにねぇ。
「ダメだコリャ。あと一時間はかかるよー」と【えんじぇるん】。
「相変わらずだなー【でびるん】は…」はふ、とため息【みっけん】。

雲が切れて陽がさせば、まだまだ暖かいそんなころ。

「ん〜? いないって、誰が?」
「【とらん】だよー。さっきからそう言ってるじゃないかー」
「なんで?」
「分からないよー。だから、聞きに来たんじゃないかー」
【みっけん】持参のお菓子とお茶で、遅い寝覚めの朝ゴハン。
もぐもぐ【えんじぇるん】をしばし見つめてた【みっけん】は。
「…ねぇ。【えんじぇるん】何か知ってるんじゃない?」と懐疑的。
一瞬、うっと、のどを詰まらせた【えんじぇるん】。
お茶をゴクっと。
「ボクボボクは知らないんだなぁ…。あ、【でびるん】なら知ってるかな?」
ゆさゆさ。
「…ぉむーぅーん…むにゃむにゃ…」とやっぱり寝ぼすけ声でゴロンと寝返り。
「…ダメみたい」無理矢理、ニィ、と【えんじぇるん】。


でも。



「…どうしても行かなくちゃダメなのかな」
光のカケラも無い夜。音のカケラも無い森の中。
ネコだまりの大岩に腰かけて、真っ黒としましまが2人。
「うん。そうみたいだねぇ」
いつものニコニコ顔で応える【とらん】。
「もう少し…居られないのかな…」
いつもの無表情で問いかける【でびるん】。
「おいらも出来ればそうしたいんだけど…」
ふ、と息をもらし。
「そう出来ないのは…【でび】ちゃんや【えんじぇ】の方がよく知ってるでしょ?」
くす、と笑う。
「2人とも、“そのため”に、ここにいるんだからねぇ」
「そりゃ…分かってる…けどさ」
くすん、と鼻を鳴らす。
「【えんじぇるん】は…延ばすのは無理だって言ってたし…」
もう一度、くすん。
「でもだって…急すぎるよ。なんで、いつも、こんな…」
「ん〜。そだねぇ…」
ニコニコ顔のまま、星のない夜空を見上げ。
「しょうがない、なんて言いたくないけどね。でも…」
一瞬、ふっと気配が消える。
「しょうがない…よねぇ…」
光のカケラもない夜。【でびるん】が見た最後の笑顔。



【みっけん】が帰っていった後。森がだんだん、ざわつき始め。
【とらん】が、いなくなった。
いつもの森のネコだまり。
岩の上で日向ぼっこして、気が向けばころころお散歩。
みんなでにゃんにゃん歌ったり、わいわいおしゃべりしたり。
でも、今日はどこにも見当たらない。
みんな、あちこち探してまわる。
森の外れも。海も。牧場の方へも。

そんなころ、一本もみの樹の上。
「…あ、起きた? おはよー」
ようやく起き上がった【でびるん】に、温めたミルクをさし出す【えんじぇるん】。
【でびるん】、ミルクはあんまり好きじゃないけれど…。
「【とらん】…好きだったよねぇホットミルク」と【えんじぇるん】。
「…そだな」こく、と一口。
「…なー【えんじぇるん】…」
「なーに?」
ずっと握ってた手をそっと開くと、真っ白な羽根がふわり。
「…なんでも…ない」


真っ暗な森の闇の中に、白がふわふわ漂って来て。
「そろそろ…行かなくちゃ」
と【えんじぇるん】の声。
【とらん】はゆっくり立ち上がり、
「【でび】ちゃん、ほら」
そう言ってゆっくり背を向ける。
「いいでしょ〜、これ♪」
ふり返って、にこにこ笑顔。
真っ暗な森の闇の中。
しましま【とらん】の背中には、

透きとおるように真っ白な、一対の翼。

「みんながこの森に集まってきて」
サワ、と風がひとすじ、通り過ぎていく。
「いろんなことを教えてもらったにゃ」
森の中に、音のカケラが舞う。
「おいらからも、もっと…みんなに、いろいろ伝えたかったけど」
風が過ぎれば、また闇の中。
なんにもない、真っ暗な夜。
「みんなに会えて、よかったにゃん」
う〜んと伸びして、真っ黒な森を見回しながら。
「この森…この森のみんなは、おいらの」

背中の羽根が微かにはためいて。

「…宝物にゃん♪」

【でびるん】が見た、最後の笑顔。



空が真っ赤に染まるころ。
森のみんなも、【とらん】が行ってしまったことに気がついて。
いろんな思い出が、いろんな場所に顔を出し。
それぞれの気持ちを、それぞれの気持ちで…。



いつもの森のネコだまり。
日向ぼっこの岩の周りには、
たくさんたくさん、お花が咲いて。
岩に刻まれた言葉を飾る。

--- ありがとう ---

森は今日もにぎやか。
みんなの元気がいっぱい溢れ、
みんなの笑顔がいっぱい溢れ。

見上げれば、玉虫色の空。

きらきら色に輝く、素敵な空。


【とらん】が見せてくれた、心の空。
みんなの心に澄み渡る、虹色の空。
雲もかかるし、雨も降るし…でも、
いつか晴れ晴れ。
いろんな色して玉虫色。

それは。

きらきら色に輝く、素敵な空。

それは…。







【とらん】の、大切な宝物。







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